電車等で痴漢冤罪の疑いをかけられた場合、よくその場から逃げるのが適切かという議論がありますが、現場から逃げるという対応には、次のようなリスクがあります。

最初に、逮捕・勾留のリスクです。逮捕や勾留は、犯罪を行ったと疑うに足りる相当理由と、身柄拘束の必要性が要件となります。

「身柄拘束の必要性」というのは、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ、住居不定といった事由です。

被害者に口止めをするなどの罪証隠滅行為を防止するには被疑者の身柄を拘束し、被害者と接触できないようにしなければなりません。

また、捜査を継続実施するには被疑者に逃走されては不都合です。

こうした事情から逮捕されたり、勾留されたりする必要があります。

現場から逃げるということは、逃走のおそれを示す最も強力な事情となるため、本来であれば、逮捕されないか、逮捕されても勾留されずに釈放されるような事案であるにも関わらず(家庭を持つサラリーマンの方々など生活や地位が安定されている方々の場合には、このようなケースも多いです。)、現場から逃げたという事情があるが故に、数週間から場合によっては数か月も身柄を拘束されてしまう、そんなリスクが発生します。

次に、万が一、逮捕・勾留されてしまったとしても、起訴後は保釈請求をし、保釈金を預託することで釈放される手段が残されています。

しかし、現場から逃走していた場合、その事情がやはり保釈申請にあたって不利に働く場合があります。

すなわち、事件当時に現場から逃亡したという事情は、被害者への接触や偽装工作の機会を確保しようとしたと判断される余地があり、罪証隠滅のおそれがあるとして保釈不許可があるものと判断される可能性があるといえます。

この場合、起訴後も勾留が数か月続くことになります。

そして、刑事裁判において、痴漢を行ったか否かを争う場合にも、行為後の事情として、現場から逃走していたという事情は非常に不利な事情に働くものと言えます。

このように、現場から逃げるという対応については、本当に冤罪であったとしても、上記のように不利に働くものと言えますので、適切な対応とは言えないものと考えます。

そのため、万が一痴漢冤罪の疑いをかけられたときにすべきことは、駅員に対し、自分はやっていないということをしっかりと述べることになります。

仮に、後日裁判になった場合にも、事件当初どのように言っていたかは、無罪を決する一つの状況証拠にもなってきます。

そして、その上で、すぐに家族に連絡して来てもらうことが大切です。

家族が警察署に急行してくれて、その身分証明書等から家族であることが確認でき、氏名も住所も確認でき、そのうえ、「今後、警察署や検察庁から本人に対して出頭要請があれば責任をもって従わせます。」、「家族ですから本人に逃亡などさせません。」などと誓約する「身柄引受書」に署名押印して提出すれば、警察も本人の逃亡のおそれは低いとして釈放して在宅捜査とすることも大いにあり得ます。

また、仮に逮捕したとしても、勾留請求の段階で釈放されたり、勾留却下となって釈放される可能性も高まります。
 
仮に、痴漢冤罪であったとしても、その場から逃げるのではなく、かえって上記のような対応をすることが仕事や生活面におけるリスクを軽減できるものと考えます。

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