財産分与では,共同生活をしている夫婦が婚姻期間中に築いた財産については,夫婦が協力して形成したものであるため,原則として夫婦平等に清算しなければなりません。
ところで,財産には,預貯金,不動産,退職金,株式等,色々な種類のものがあり,これらは離婚に至るまで増減するものですから,離婚する場合に,①いつの時点の財産を対象とするか,また,②①で確定した財産の評価時をいつにするのかが問題となります。
そこで,ここでは,①②について,それぞれの基準時について見ていきたいと思います。
なお,財産分与の性質には,清算的財産分与,扶養的財産分与,慰謝料的財産分与という考慮ファクターが存在しますが,ここでは清算的財産分与を前提に検討します。
①いつの時点の財産を対象とするか
まずは,財産の範囲を決める必要があります。
つまり,離婚に至る夫婦は,離婚が成立するまでの間に「別居」をしているケースがとても多く,別居後の財産についても分与の対象となるのかが問題となります。
これについては,二つの考え方があります。
簡単に言うと,別居時を基準とすべき考え方(A説)と,裁判が終結する時点を基準とすべき考え方(B説)です。
しかし,実務では,婚姻後別居時までに形成した財産のみを対象とする考え方,つまりA説を採用しております。
実際,裁判例は,「清算的財産分与は,夫婦の共同生活により形成した財産を,その寄与の度合いに応じて分配することを内容とする者であるから,離婚前に夫婦が別居した場合には,特段の事情がない限り,別居時の財産を基準にしてこれを行うべきであ」るとします(名古屋高裁平成21年5月28日・判例時報2069号50頁)。
ただし,「特段の事情がない限り」として,条件を付けているとおり,A説に立ったのでは公平性を著しく欠くような場合には,理論的には,B説に立脚する余地も0ではないので注意が必要です。
②①で確定した財産の評価時をいつにするか
次に,①で確定した財産をいつの時点で評価するかが問題となり得ます。特に,不動産や株式などは,時間の経過によって価値が増減する性質がありますので問題となります。
これについても,①で述べたとおりの二つの考え方があるといえます。
実務では,別居時に存在した財産について,裁判時(厳密には,事実審の口頭弁論終結時)を基準に評価することが主流です。
つまり,B説を採用していると考えられます。
そこで,例えば,株式や不動産等の変動のある財産については,裁判時の価値を原則とすると考えて差し支えありません。
なお,不動産がローン付の場合,ローン残高についても裁判時を基準とすべきとする裁判官が実在します。
一方で,預貯金や生命保険等の解約返戻金については,あくまで別居時の価値にすべきです(その点ではA説が妥当します)。
なぜなら,財産分与の対象は,別居時に存在した財産である以上(①におけるA説),別居時における預金残高や解約返戻金額がそのまま財産の評価とするのが合理的であるからです。
これらは,不動産や株式のように,時価の変動はほとんど考えられませんので,裁判時を基準としなくても不公平ではないのです。
なお,私見ですが,不動産や株式について考え方が別れる理由には,不動産は,過去に遡って金額を定めることが困難であると思われること,株式は,別居時とすると,株価変動を見計らって別居しその評価額を操作することが可能となることなども影響しているのかもしれません。
一方,預貯金や保険の解約返戻金は,別居時の価値が1円単位で明確であり,かつ別居時点の価値と裁判時の価値における大きな変動がないから,原則どおり,別居時を基準に評価して差し支えないと考えられるのかもしれません。
まとめ
以上から,清算的財産分与の対象となる財産の範囲は,別居時点で定まります。
その上で,別居時点の財産の評価は,不動産や株式等の価値の変動のある財産については裁判時を基準とし,それ以外の預貯金や保険の解約返戻金については別居時を基準とすることが一般的といえます。
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